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ヴァレンティノ「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」2027年春夏、アレッサンドロ・ミケーレが描く未知のワードローブ

本棚に並ぶのは、すでに読み終えた本だけではありません。むしろ、まだ開いていない本の存在こそが、これから知り得る世界の広さを示している。アレッサンドロ・ミケーレは、この考え方をファッションへと移し、ヴァレンティノ2027年春夏コレクションに「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」という名を与えました。舞台に選ばれたのは、パリのサント・ジュヌヴィエーヴ図書館。そこでは服が、すぐに消費されるためのものではなく、まだ着られていない時間さえも含めて、人が思い描くことのできる人生や身体の可能性を蓄えるものとして捉え直されています。読む前の本と、着る前の服。その間にある豊かな余白が、今季の出発点です。

2026年10月4日(日)、ヴァレンティノはパリのサント・ジュヌヴィエーヴ図書館を舞台に、クリエイティブ ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレによる2027年春夏コレクション「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」を発表しました。今回のテーマの出発点となったのは、本棚に並ぶ「まだ読まれていない本」です。すでに得た知識よりも、これから知ることのできる未知の領域に価値を見いだすという発想を、ミケーレは衣服のあり方へと重ねています。ショーが図書館という知の蓄積を象徴する場所で開かれたことも、その考え方を明確に示すもの。実際のランウェイでは、鮮やかな色のコルセット、レースや羽根をあしらったドレス、構築的なジャケットなど、多様な表情を持つ服が行き交い、ひとつの決まった着こなしに収まりきらないワードローブの広がりを見せました。

ヴァレンティノ「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」2027年春夏、未読の本から考えるファッションの可能性

その発想をさかのぼると、ナシーム・ニコラス・タレブが著書『ブラック・スワン』で紹介した、作家ウンベルト・エーコの膨大な個人蔵書に行き着きます。エーコの書斎には3万冊に及ぶ本があり、その中にはまだ読まれていないものが数多く含まれていました。タレブが見いだしたのは、その未読の本が知識不足を示すものではなく、まだ知らないことへの扉として価値を持つという考え方です。読み終えた本だけを知の証として並べるのではなく、これから理解する対象をあえて手元に置いておく。その書斎のあり方が、今回のコレクションを理解するための重要な手掛かりになっています。ヴァレンティノにとって本棚は、既知のものを並べた場所ではなく、未知を蓄える空間として捉え直されています。

ヴァレンティノ2027年春夏「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」アレッサンドロ・ミケーレが描く未知のワードローブ

アレッサンドロ・ミケーレによるヴァレンティノ2027年春夏、図書館から広がる「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」

タレブがエーコについて語った「アンチライブラリー」の核心は、すでに知っていることではなく、まだ知らないことを目に見える形で持っておくことにあります。未読の本は、読み終えるまで価値が保留される存在ではありません。そこには、これから出会うかもしれない知識や考え方、予想もしなかった発見が最初から含まれています。だからこそ、その本棚は所有を誇示するためのものではなく、未知へ向かうための道具となる。ミケーレはこの構造をファッションへ置き換え、衣服にもまた、着用された結果だけでは測れない価値があると考えました。服が身体に触れる前から、その姿や素材、シルエットを通じて想像力を刺激し得るという見方が、「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」の根底にあります。

ヴァレンティノ「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」、ウンベルト・エーコから着想した2027年春夏コレクション

ヴァレンティノ2027年春夏コレクション、アレッサンドロ・ミケーレが考える服と「まだ知らない世界」

この考え方は、日本で古くから親しまれてきた「積ん読」にも重なります。購入した本がすぐ読まれず、棚や机の上に積まれたままになっていても、その存在が無意味になるわけではありません。まだ開かれていない一冊は、これから知ることのできる世界を手元に置いている状態ともいえます。新しい紙の匂いを感じ、表紙を眺め、そのタイトルから内容を想像する。その時点ですでに、本は未来への期待を生み出しています。ミケーレが今回向き合ったのも、こうした「まだ使われていないもの」の豊かさです。読まれていない本と同じように、まだ着られていない服にも、これから訪れる時間や、自分がまだ経験していない人生の断片を思い描かせる力があります。

ヴァレンティノが2026年10月4日、パリのサント・ジュヌヴィエーヴ図書館で2027年春夏コレクション「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」を発表

アレッサンドロ・ミケーレによるヴァレンティノ2027年春夏「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」

ミケーレは、このアンチライブラリーという考え方をファッションの現場へ持ち込みました。シーズンごとに生み出される服は、それぞれ異なる運命をたどります。ランウェイを一度だけ歩いて記憶の中に残るものもあれば、写真や映像によってイメージとして生き続けるものもあります。誰かのワードローブに迎えられ、長い時間を過ごしながら、ほとんど着用されない服もあるでしょう。それでも、その服が人の人生から切り離されているとは限りません。身体に触れていない時間でさえ、眺めることで生まれる感情や、まだ着ていない服をどう着ようかと想像する瞬間が、衣服と持ち主との関係をつくっていくからです。

ヴァレンティノ「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」2027年春夏、未読の本から考えるファッションの可能性

ヴァレンティノ2027年春夏「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」アレッサンドロ・ミケーレが描く未知のワードローブ

そう考えると、服の価値を「実際に使うかどうか」だけで判断することには限界があります。エーコの書斎に並ぶ未読の本と同じように、着用されていない衣服にも、消費や実用性とは別の役割があるからです。そこには、身体をどう見せるのか、どんなシルエットを選ぶのか、どの時代の美意識に身を置くのかといった複数の選択肢が蓄えられています。すべての服が現実の生活の中で活用される必要はありません。着ることなく眺めるだけの時間や、いつか着るかもしれないという想像も、ファッションの一部になり得ます。ワードローブは、実際に着る服だけを収める場所ではなく、まだ選ばれていない可能性まで保管する空間でもあるのです。

アレッサンドロ・ミケーレによるヴァレンティノ2027年春夏、図書館から広がる「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」

ヴァレンティノ「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」、ウンベルト・エーコから着想した2027年春夏コレクション

その視点から見れば、ファッションショーそのものもひとつの「視覚的なアンチライブラリー」として捉えられます。ランウェイに登場する服は、すべてがそのまま現実の生活へ移されるわけではありません。しかし、実現されない可能性を含めて提示されるからこそ、ショーには独自の密度が生まれます。ここで鍵となるのが、哲学者ジョルジョ・アガンベンが論じた「潜在性」という考え方です。何かが実現することだけを価値とするのではなく、複数の可能性を抱えたまま存在できる状態そのものにも意味がある。実現されることでひとつの形に固定される前の豊かさこそが、想像力を支えるという考え方です。「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」は、服をそのような潜在性の領域に置き直します。

ヴァレンティノ2027年春夏コレクション、アレッサンドロ・ミケーレが考える服と「まだ知らない世界」

ヴァレンティノが2026年10月4日、パリのサント・ジュヌヴィエーヴ図書館で2027年春夏コレクション「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」を発表

ファッションショーに並ぶ衣服もまた、使用価値だけでは説明できない存在です。そこにあるのは、今すぐ着るための答えではなく、「この服ならどんな身体の見え方になるだろう」「この装いならどんな場所へ行けるだろう」といった問いを生み出す余地です。アレッサンドロ・ミケーレは、鮮やかな色彩や装飾、異なる時代を思わせる要素をひとつのランウェイに重ねながら、衣服をひとつの用途へ閉じ込めない構成をつくり上げました。ファッションは消費される現在だけに働くのではなく、まだ経験していない未来を想像するための装置にもなり得る。今季のヴァレンティノは、その視点をコレクションの核として提示しています。
「開かれていない本が、まだ知らない世界を私たちのそばに置いてくれるように、着ることのない服もまた、私たちが生きる可能性のある人生を想像させてくれる」。そんな考えを軸に、アレッサンドロ・ミケーレは「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」を形にしました。そこにあるのは後悔ではなく、まだ経験していないことへの期待です。人は、実際に訪れることがないかもしれない場所や、まだ出会っていない自分自身を想像することができます。服もまた、その想像を一時的に身体へ重ねるための媒体になり得ます。未来に残された選択肢を閉じず、知らないものを身近に置いておく。その余白こそが、世界を少し広く感じさせる力になるのかもしれません。

@MaisonValentino
#ValentinoAntibiblioteca



【Editor's View】
ヴァレンティノの「アンティ ビブリオテーカ(ANTIBIBLIOTECA) 」は、図書館を舞台にしたことだけがユニークなのではありません。本が「読まれていない」という状態を欠如ではなく可能性として捉え直すことで、服にも同じ視点を与えたところに、このコレクションの特徴があります。アレッサンドロ・ミケーレは、ファッションを完成したスタイルの提示だけで終わらせず、見る人の中に別の人生や身体のあり方を想像させるものとして扱っています。服が身体に着用されるまでの時間や、着用されないままワードローブに残る時間まで含めて価値を考えると、ファッションの魅力は「使う」瞬間だけには収まりません。未知のものを手元に置き、そこから未来を想像する。その発想が、今回のヴァレンティノを静かに支えています。

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