2026.09.29
カテゴリ: コレクション
フェンディ 2027年春夏コレクション 、マリア・グラツィア・キウリが「身体」を起点に描く新たなファッション
2026年9月23日、フェンディのミラノオフィスで発表された2027年春夏コレクションは、「身体」を起点に構築されています。チーフ クリエイティブ オフィサーのマリア・グラツィア・キウリが向き合ったのは、衣服を着せる対象としての身体ではなく、現代を生きる人が持つ欲望や感情まで含めた身体そのものです。強さと脆さを同時に抱え、固定された男女の役割からも距離を取る身体を前に、服はその形を規定するものではなく、動きや気分に寄り添う存在へ。身体との距離を縮めながら、フェンディのワードローブそのものにも新しい自由を与えています。
その思想を言葉の面から支えるのが、E.E.カミングスの詩「I like my body when it is with your body」です。ひとりの身体を自己完結したものとして捉えるのではなく、他者との関係の中で立ち上がる感覚に光を当てることで、衣服にも新しい役割が与えられています。キウリにとって服は、身体から切り離された外側の装飾ではなく、感情を受け止める「第二の皮膚」。その考えは、強さと繊細さ、男性性と女性性といった相反する要素を一方へ決めつけず、同じワードローブの中で交差させていく今季のスタイリングにもつながっています。
コレクションの具体的な出発点になったのは、男女の下着です。本来は身体に最も近く、隠すことも見せることもできるインナーを、レースや刺繍、さまざまな色彩によってファッションの表側へ引き上げています。その自由な身体表現を象徴する存在として登場するのが、イタリアのポップカルチャーを代表するラファエラ・カッラです。ステージ衣装やパフォーマンスを通して、自らの身体をどう見せるかを主体的に選び続けた彼女の姿が、今季のデザインに重なります。私的なものだったランジェリーを街へ持ち出すことで、隠すことと見せることの間に新しい選択肢をつくっています。
身体をめぐる視線は、会場演出によってさらに増幅されました。鏡は本来、ひとりで自分自身を確認するための道具ですが、今季はアドリアーノ・チェレンターノやラファエラ・カッラ、さらに「Prisencolinensinainciusol」のパフォーマンスに登場したダンサーたちの動きを重ねるような装置へ変化。ランウェイには、イタリアのアーティスト、ルチアーノ・ファブロの「Cubo di specchi(ミラーキューブ)」に着想を得た鏡の構造物が置かれ、モデルだけではなく観客自身の姿まで反射の中へ引き込みました。自分を見るための鏡が、他者を発見するための視線へと変わる仕掛けです。
衣服のスタイリングもまた、異なるものを一つにまとめる発想で構成されています。光沢のある質感とマットな表面、軽い素材と重厚な素材、シルクとアニマルプリント、レースと刺繍、インターシャを重ね、ドレッシングガウンのような部屋着の要素も街の装いへ転換。ベルベットやパーチメントのような異なる質感を組み合わせ、パンクとブルジョワのコードも同じルックの中で共存させています。ジュエルシューズなどのアクセサリーまで含め、ひとつのカテゴリーに固定されないスタイリングを提案。男性と女性を別々の規範に当てはめるのではなく、身体に合わせて自由に組み替えられるワードローブとして再構成しています。
身体を縛るためではなく、その存在を肯定するための服。その考え方は、今季のフェンディを貫くデザインの軸になっています。ランジェリーを表へ出し、肌に触れるレースや軽やかなシルクと、厚みのあるベルベットやアニマルプリントを交差させることで、身体の繊細さと強さを同時に描写。公式のコレクションページには70ルックが並び、ウェアだけでなくバッグやシューズなどを含めて、一貫した世界観が広がっています。フェンディの2027年春夏は、服によって身体を分類するのではなく、身体から生まれる感情や他者との関係を起点に、装いそのものを柔軟に捉え直したコレクションです。
今回のフェンディを考えるうえで印象的なのは、「身体をどう見せるか」という従来のファッションの問いを、「身体は誰と、どのような関係の中にあるのか」という問いへ広げていることです。ランジェリーを表に出すという手法自体は珍しくありませんが、今季はそれを単なるセンシュアルな演出に留めず、他者との関係や自己認識まで含めて捉え直しています。E.E.カミングスの詩から始まる視点、ラファエラ・カッラの身体表現、アドリアーノ・チェレンターノのパフォーマンス、ルチアーノ・ファブロの鏡の作品が一つのランウェイへ集まることで、身体を見る視線そのものがテーマになっています。鏡によってモデルと観客の境界が曖昧になる演出も、その考え方を端的に表す仕掛けです。マリア・グラツィア・キウリは2025年10月にフェンディのチーフ クリエイティブ オフィサーに就任し、2026-27年秋冬で本格的な活動をスタートしました。その最初のコレクションから続く、身体、感情、欲望への関心が、今回の2027年春夏ではさらに明確になっています。70ルックに広がるスタイリングを見ても、フェミニンとマスキュリン、プライベートとパブリック、軽さと重さといった対照をどちらか一方へ寄せるのではなく、両方を同時に存在させる方法が選ばれています。服が身体を規定するのではなく、身体とともに変化する。その発想が、今季のフェンディに新しい輪郭を与えています。
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