2025.11.30
カテゴリ: 新作
ダニエル・ロート 新作「トゥールビヨン プラチナ」を発表、ダブルエリプスとDR001で紡ぐ第二の黄金期
機械式時計の世界で、トゥールビヨンという言葉には特別な響きがあります。その複雑機構を自らの名刺代わりにしてきたのが、独立系ウォッチメイキングを切り拓いたダニエル・ロートです。2023年の復活以降、同ブランドはクラシックなダブルエリプスケースと自社ムーブメントDR001を軸に、新たな章を紡ぎ続けています。なかでも「トゥールビヨン プラチナ」は、ブレゲ時代から続くトゥールビヨンとの縁を映し出す象徴的な一本。プラチナケース、緻密なギョーシェダイアル、サファイアバックから覗く仕上げの美しさなど、ディテールの隅々まで「芸術品としてのウォッチ」という信条を宿しています。時計を時間を知る道具として以上に、ライフスタイルの核となる存在として選びたい人にこそ刺さる物語です。
ダニエル・ロートという名は、伝統的なウォッチメイキングと控えめでありながら高度なクオリティを併せ持つ存在として知られています。そんな由緒あるメゾンの第二の黄金期を象徴するのが、信条とする「芸術品としてのウォッチ(La Montre Objet d’Art)」を体現した新作「トゥールビヨン プラチナ」です。このモデルは、タイムピースを実用品にとどめず、身に着けるアートとして提示するダニエル・ロートの世界観を、現代の審美眼に合わせて更新する役割も担っています。

「トゥールビヨン プラチナ」は、1988年に登場したアイコニックなトゥールビヨン REF. 2187 / C187から直接インスピレーションを得たモデルです。ダニエル・ロート氏がとりわけ愛した複雑機構であるトゥールビヨンに、ハイウォッチメイキングの普遍的な理想へ捧げてきた情熱を重ね合わせた一本であり、オリジナルへのオマージュでありながら、現代の目線でその価値を再解釈したクリエーションといえます。
メゾンの復活は、2023年にロート氏のお気に入りの複雑機構である「トゥールビヨン」と「エクストラ プラット」から静かに幕を開けました。両モデルはまず、クル・ド・パリ ギョーシェ模様をまとったイエローゴールド製の20本限定スースクリプションシリーズとして発表され、その後、ピンストライプ ギョーシェ模様を施したローズゴールド製の通常生産モデルが続きました。クラフツマンシップを前面に押し出したこの展開が、再始動したダニエル・ロートの方向性を明快に示しています。
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「トゥールビヨン」と「エクストラ プラット」は、共通のデザインコードとウォッチメイキング哲学を基盤としており、わずかにアップデートされたダブルエリプスケースと自社製マニュファクチュールムーブメントを備えています。「トゥールビヨン」に搭載されるDR001と、「エクストラ プラット」に搭載されるDR002は、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」の設立者でありマスター・ウォッチメーカーでもあるミシェル・ナバスとエンリコ・バルバシーニが、ダニエル・ロートのために特別に開発したムーブメントです。独創的なフォルムと最高水準の仕上げを両立させたキャリバーは、メゾンの復活が単発の復刻ではなく、未来への継続的な挑戦であることを物語っています。
イエローゴールドとローズゴールドのペアによって築かれてきた伝統を引き継ぎながら、「トゥールビヨン プラチナ」は、より現代的な表情をまとって登場します。この新作は、素材の選択そのものによってコレクション全体を一段引き上げる存在として位置づけられ、ダニエル・ロートにとって新たな章の幕開けを象徴する一本となっています。クラシックを敬いつつ今の感性にも寄り添うバランス感覚が、ハイエンドウォッチを選ぶ際の判断軸を持つコレクターに訴えかける構成です。
アイコンをさらなる高みへ
歴史を振り返ると、プラチナはウォッチメーカーが自らの最高峰の作品を一層格調高く仕上げたい時に選んできた特別な素材です。ダニエル・ロートにおいても、最初の黄金期には厳選されたタイムピースにのみ用いられてきましたが、近年の新章においては姿を見せていませんでした。「トゥールビヨン プラチナ」は、その重みと希少性ゆえにコレクターから高く評価されるこの貴金属の再登場を告げるモデルであり、メゾンの歴史と現代のニーズをつなぐ重要な一歩となります。
プラチナは、その極めて高い希少性に加えて、金以上に扱いが難しい素材です。特にケースなどのプラチナ製部品を機械加工する際には、専用の工具を用いながら、技術者が細やかな調整を重ねる必要があります。そのため、プラチナケースの製作には、18Kゴールド製ケースの最大3倍に及ぶ時間がかかるといわれます。この手間の積み重ねが、手元にのせた瞬間の存在感や、所有する喜びをいっそう深める要因になっています。
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「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」のアーティスティック・ディレクターであるマチュー・エジは、プラチナについて、物理的な重さだけでなく、長年にわたりウォッチメーカーに敬意と畏れを抱かせてきた素材だと語ります。金よりも加工が難しいからこそ、特別なクリエーションにこそふさわしい存在とされ、その高い名声はダニエル・ロートのようなメゾンにとっても強い魅力となります。トゥールビヨンをホワイトメタルで表現する構想が生まれた時、プラチナ以外の選択肢は考えにくかったという言葉には、素材への信頼と確信がにじんでいます。
「トゥールビヨン プラチナ」は、C187のデザインと精神を大切に受け継ぎながら、ダニエル・ロートの美意識を象徴するダブルエリプスフォルムを採用しています。四角形と円形の要素を組み合わせたこのフォルムは、1988年にロート氏自身が考案したもので、大型トゥールビヨンにふさわしいプロポーションを生み出すケースとして知られています。発表当時は革新的と評されたダブルエリプスは、時を経た今では数少ない現代的ケースデザインのアイコンの一つとなり、「トゥールビヨン プラチナ」にもタイムレスな存在感を与えています。
「トゥールビヨン プラチナ」では、オリジナルのダブルエリプスケースに備わっていた重要なディテールを余さず受け継ぐことで、高いレベルの歴史的忠実性を実現しています。そのこだわりは見た目だけにとどまらず、1988年当時の意匠に敬意を払い、秒針の3本のアームのうち最も長いアームが、ケース内部に用意された独自の経路を通る構造も再現されています。この慎重な作り込みによって、過去の名作と現在の新作が自然につながり、コレクション全体に連続性を与える奥ゆかしいディテールとして機能しています。
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とはいえ、「トゥールビヨン プラチナ」のダブルエリプスケースは、オリジナルの形をそのまま写しただけの存在ではありません。ダニエル・ロートの再始動に合わせて、このシグネチャーケースには、ごくわずかながらも意味のあるアップデートが加えられています。ラグは引き続きケース中央に手作業ではんだ付けされますが、現在のモデルでは下方向に弧を描くようなプロポーションとなり、手首に沿うカーブがより自然になるよう見直されています。その結果、クラシカルな佇まいを保ちながら、日常的な装着感は一段と快適になっています。
ダニエル・ロートのパイオニア精神に対する現代的なオマージュとして誕生した「トゥールビヨン プラチナ」のケースシルエットは、自社マニュファクチュール製キャリバーDR001の採用により、オリジナルのC187と比べてわずかに薄く仕上げられています。この控えめなプロポーションの変化が、ドレッシーな印象と装着感の軽やかさを同時にもたらし、トゥールビヨンという複雑機構を日常の装いの中にも自然に取り入れやすくしています。
象徴的な配色
同じく貴重なディテールを担う「トゥールビヨン プラチナ」のダイアルは、ソリッドホワイトゴールドをベースに、アンスラサイトトーンで仕上げられています。この素材と色調の組み合わせが、手動直線エンジン旋盤によって刻まれるダニエル・ロートならではの直線的なギョーシェ模様を、立体的に際立たせるキャンバスの役割を果たしています。光の角度によってニュアンスを変えるテクスチャーは、トゥールビヨンのメカニズムと呼応しながら、静かな深みを湛えた表情を生み出しています。
時刻表示の中心となるチャプターリングは、あらゆる面で非常にクラシカルな佇まいを意識しており、スターリングシルバー925製で構成されています。3段に分かれた秒目盛りに加え、ブランド名「DANIEL ROTH」と個々のウォッチ番号が配された両脇のアイコニックな「マスターシュ(口ひげ飾り)」も同じシルバー素材で仕立てられています。これらの要素がバランスよく配置されることで、ダイアル全体に端正なリズムと、クラシックウォッチらしい気品が生まれています。
これらのパーツはすべて個別に製作され、それぞれの縁には伝統的な手動ローズエンジン旋盤を用いたフィレ・ソテ模様のギョーシェが刻まれています。特に、特徴的な曲線を描く「マスターシュ」のフォルムは、ギョーシェ職人にとって高度なテクニックを要するモチーフであることが判明し、その表現のためにローズエンジン旋盤に取り付ける特注工具を新たに開発する必要がありました。こうした見えにくい工夫の積み重ねが、ハイウォッチメイキングならではの奥行きある表情を支えています。
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ダイアルを構成するすべてのパーツは、「ラ·ファブリク·デュ·タン ルイ·ヴィトン」のファシリティ内で一貫して製造されています。ここには、完全な動作が可能な状態にまで丁寧に修復されたヴィンテージのエンジン旋盤を備えたギョーシェ加工アトリエがあり、歴史ある機械と現代のマニュファクチュール体制が共存する環境の中で、ダニエル・ロートのダイアルが生み出されています。
このような昔ながらの手仕事を主役とする製造プロセスでは、必然的に生産本数に厳しい制限が生まれます。「トゥールビヨン プラチナ」のダイアル1枚を完成させるまでには、熟練したギョーシェ職人が1本1本ラインを刻み込んでいき、最大で3日を費やすことになります。さらに、工程のどこかでほんのわずかなミスが見つかった場合でも、そのダイアルは使用せず破棄されるため、1枚ごとに高度な集中力と経験値が注がれた結果だけがタイムピースとして残されます。
トゥールビヨン キャリバーDR001:
ダニエル·ロートの鼓動する心臓部
ダニエル・ロートの現代的ルネサンスは、ブランドのシグネチャーであるダブルエリプスケース専用に開発された新しいフォルムのムーブメント、DR001の導入から2023年にスタートしました。このキャリバーは、ケースの個性的な輪郭に美しく沿うシルエットと、トゥールビヨンを中心とした機構美を両立させるために設計思想から練り上げられており、メゾンが次の時代に向けて歩み出す象徴的な心臓部となっています。
このトゥールビヨンという機構は、ダニエル・ロートという名を語るうえで欠かせない存在です。ブレゲ在籍時代、同ブランド初のトゥールビヨン腕時計を作り上げたのは、ほかならぬロート氏本人でした。その後、自身の名前を冠したブランドを立ち上げるにあたり、彼が原点として立ち返ったのもやはりトゥールビヨンの製作でした。こうしてロート氏は、この複雑機構をいち早く自らの看板に掲げた独立系ウォッチメーカーとなり、ダニエル・ロートのストーリーはトゥールビヨンと強く結びついたものとして受け継がれています。
ダニエル・ロートの哲学を反映し、キャリバーDR001を構成する206個のパーツは、どれも一つ一つ手作業で仕上げが施されています。ダイアルの下に隠れてしまう部品でさえ、表側と同じ意識で装飾が加えられているのが特徴です。通常は製造工程でしか目にすることのない場所にまで職人の技を注ぐことで、巻き上げや時刻合わせの際に指先へ伝わる感触が豊かになり、時計愛好家は目ではなく肌でメゾンのこだわりを感じ取ることができます。
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「ダニエルとは長年の友人であり、私たちは彼がDR001に寄せる期待の大きさをよく理解していました。エンリコと私は、彼の抱く伝統や気品への思いを共有しており、ブランドの第2幕にふさわしいトゥールビヨンを生み出すため、『ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン』のユニークなサヴォアフェールを存分に生かすことができました」と、ミシェル・ナバスは語ります。そのコメントからは、友人としての信頼関係と、ダニエル・ロートの名を未来へつなげようとする強い意志がにじんでいます。
「ダニエルは、ミシェルと私にとって常にインスピレーションを与えてくれる存在でした。だからこそ、機構と仕上げを重視する創業当初からの姿勢を尊重することが、私たち2人にとって重要だったのです」とエンリコ・バルバシーニは続けます。「ダニエルは独立系ウォッチメイキングの真の先駆者でしたから、私たちが過去のスタイルをなぞるだけで終わるわけにはいきません。ダニエル・ロートへの私たちのビジョンは、微細なディテールをさらに高い段階へと押し上げながらも、ブランドの歴史には忠実であり続けることなのです」。ブランドの復活が単なる復刻ではなく進化の物語として構築されていることが、この言葉からも伝わります。
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密閉型のケースバックを採用していた「トゥールビヨン スースクリプション」とは異なり、「トゥールビヨン プラチナ」ではサファイアクリスタルを通してムーブメントDR001を眺められる仕様になっています。この透明な窓からは、ブラックポリッシュが施されたスティールパーツ、柔らかな光を返す面取り、ペルラージュ、そしてダイアル側の線状ギョーシェと呼応するような極薄のコート・ド・ジュネーブなど、伝統的なハイウォッチメイキングに息づく要素を余すところなく鑑賞することができます。
DR001の存在感を一層引き立てているのが、輪列の穴石を固定する3つのポリッシュ仕上げゴールド製シャトンです。ファインウォッチメイキングを愛する人々にとって、こうした華やかなディテールは大きな魅力のひとつです。中には一見すると気づきにくいものもあり、将来ムーブメントを分解するウォッチメーカーだけが目にする部分も存在しますが、そうした「隠れた美」こそが、世代を超えて受け継がれるタイムピースに特有の深みを生み出しています。
DR001の技術的特徴は、マニュファクチュールのサヴォアフェールを明快に示しており、いくつかの点でオリジナルを上回るクオリティに到達しています。パワーリザーブは80時間へと引き上げられながら、ムーブメント自体は薄く抑えられているため、手首にのせた際のプロポーションはよりしなやかな印象です。複雑機構としての存在感と、日常使いを意識した装着感の軽やかさが両立している点は、現代のライフスタイルに寄り添うトゥールビヨンとして、大きな魅力になっています。
「トゥールビヨン プラチナ」は、コレクションのなかでも特に限られたエディションとして位置づけられ、コントラストの効いたアンスラサイトグレーのダイアルを採用したモデルです。堂々としたプラチナケースは、ブランド初期の歴史へと視線を戻す役割を果たし、一方で洗練されたダブルエリプスケースのフォルムは、これから先の未来に向けたビジョンを静かに物語っています。ダニエル・ロートのトゥールビヨン・コレクションを結ぶ締めくくりの一本として、過去と今、そしてこれからを一つのタイムピースに凝縮したような存在と言えます。
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TECHNICAL SPECIFICATIONS

ケース
素材 プラチナ
寸法 38.6 x 35.5 mm
厚さ 9.2 mm
フラットな反射防止加工サファイア
クリスタル製ケースバック
ダイアルおよび針
ダイアル ピンストライプ ギョーシェ模様が施されたホワイトゴールド製ベース
スターリングシルバー925製の分目盛り
ブラックの転写フォント
針 ブラックコーティングを施したステンレススティール製
ラグ幅 20 mm
ストラップ素材 カーフレザー
防水 30 m
ムーブメント
キャリバーDR001 ミシェル·ナバスとエンリコ·バルバシーニ監修の下、開発・組み立てられた
手巻き機械式ムーブメント
パワーリザーブ
振動数 80時間 – 3Hz
寸法 31 x 28 mm
厚さ 4.6 mm
部品数 – 石数 206 - 19
発売時期 2025年11月19日
価格 185,000スイスフラン(税抜き)
ダニエル・ロートは1988年に創設された独立系ウォッチメゾンで、トゥールビヨンなどの複雑機構と控えめで端正なデザインを融合させ、時計界に新たな基準を築いた存在です。オーデマ ピゲやブレゲで培った技術を背景に、ダブルエリプスケースなど画期的なデザインを生み出し、機械的精度と上品さを追求してきました。2023年には「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」の支援により復活し、トゥールビヨン搭載の限定コレクションや自社製ムーブメントDR001を発表しています。すべてのタイムピースは手作業で丁寧に仕上げられ、ギョシェ彫りダイアルなどにより「芸術品としてのウォッチ」として位置づけられています。現在も一流のアルチザンと共に創業者のビジョンを受け継ぎながら、急速な技術革新の時代にあってもタイムレスな魅力と伝統的クラフツマンシップを守り続けているブランドです。
詳細は、ダニエル·ロート 公式サイト
www.danielroth.comをご覧ください。
公式インスタグラム:
@danielrothofficial
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All photos courtesy of LOUIS VUITTON
【Editor's View】
「トゥールビヨン プラチナ」は、復活したダニエル・ロートがどこへ向かおうとしているのかを端的に示す指標のようなモデルです。ブレゲ時代から続くトゥールビヨンとの深い関わりに、現代的なDR001キャリバーとプラチナケースを組み合わせることで、ヘリテージとアップデートされた機構美を同時に味わえる構成になっています。ダブルエリプスケースやギョーシェダイアル、ゴールド製シャトンなど、表情を形づくるディテールは一見クラシックですが、そのバランスは今のライフスタイルに自然になじむよう慎重に整えられています。機械式時計を愛する人にとって、時を知るためだけではなく、日々の装いと価値観を静かに表現する「身につけるオブジェ」を選ぶという感覚を、あらためて思い出させてくれる一本になりそうです。
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