Héritage L.Vuitton

②歴代キーポルの変遷を徹底解説

デザインと仕様の特徴

キーポル・バンドリエール-50 内装画像
キーポル・バンドリエール50 内装 ©Louis Vuitton


キーポルのデザインは、シンプルかつ合理的な旅行鞄として計算されています。メイン収納は1つの大きなコンパートメントのみで、内部の仕切りをあえて設けないことでユーザーの裁量で自由に荷物を配置できるようになっています。このシングルコンパートメント構造により、バッグ自体の重量を軽く保ちながら最大限の収納力を実現しています。

1896年織り柄モノグラム生地(再現画像)
1896年織り柄モノグラム生地(再現画像)


素材面では、前述のように当初はコットンキャンバス地で制作されていましたが、その後1960年代には、「トアル地」とも呼ばれる、より耐久性と耐水性に優れたモノグラム・PVCキャンバスへと適用素材が変更されました。外装のキャンバス地は柔軟ながら引裂きに強く、防水コーティングが施されているため天候を選ばず使用できます。補強とハンドル・トリミング部分にはヌメ革(VVN:天然の植物タンニンで鞣された牛革)が使われ、使い込むほどにアメ色に変化して味わいが増すのも特徴です。

キーポル経年変化
©BrandJOY Archives
キーポル経年変化
©BrandJOY Archives


サイズ展開は豊富で、現在25、35、45、50、55、60の4種類(数字は幅をセンチで表します)がラインナップされています。やや小ぶりな45モデルでも1~2泊程度の荷物が収納可能で、最大の60では3~4泊分を十分に賄える容量です。機内持ち込み可能なのは55サイズ(約55cm)までで、60は航空機では預け荷物向きですが、その分陸路での長期旅行には最適とされています。

ルイ・ヴィトン キーポル・バンドリエール25
キーポル・バンドリエール25 ©Louis Vuitton
ルイ・ヴィトン キーポル・バンドリエール35
キーポル・バンドリエール35 ©Louis Vuitton
ルイ・ヴィトン キーポル・バンドリエール45
キーポル・バンドリエール45 ©BrandJOY Archives
ルイ・ヴィトン キーポル50
キーポル50 ©BrandJOY Archives
ルイ・ヴィトン キーポル・バンドリエール55
キーポル・バンドリエール55 ©BrandJOY Archives
ルイ・ヴィトン キーポル・バンドリエール60
キーポル・バンドリエール60 ©Louis Vuitton

また、キーポルは「バンドリエール (Bandoulière)」と呼ばれるショルダーストラップ付きモデルも展開されています。実はストラップ自体は比較的早い段階で導入されており、1930年には早くも着脱可能なショルダーストラップ付きの仕様が発表されています。ストラップ付モデルでは、両サイドに金具で革ベルトが補強され、付属の肩掛けストラップを装着可能です。このストラップにより肩に掛けて運べるため、荷物が重い時や両手を空けたい場合でも便利になっています。現在販売されているキーポルの多くはバンドリエール仕様で、用途に応じてハンドキャリーとショルダーの二通りで使い分けられます。

キーポル・バンドリエールの補強ベルトとポワニエ
キーポル・バンドリエールの補強ベルトとポワニエ ©Louis Vuitton


付属品にも旅行鞄らしいこだわりがあります。例えば、革製のネームタグやハンドル同士をまとめて留めるホルダー(ポワニエ)、バッグ用南京錠と鍵などが標準で付属し、旅先でも安心して使える工夫が凝らされています。これらは長年にわたりデザインが大きく変わることなく受け継がれており、キーポルを見るだけで「旅支度」の情景が思い浮かぶようなクラシックな佇まいとなっています。

年代別モデル・素材変遷の年表

キーポルは発表以来、その時代ごとのトレンドや革新を取り入れながら様々な素材・デザインバリエーションが登場してきました。以下に年代別の主なモデル・素材の変遷を年表形式でまとめます。

  • 1930年 – キーポル発表。当初はコットンキャンバス製で、現代のモノグラム柄に先立ちシンプルな無地キャンバス生地を採用。発売当初からサイズ違いの展開があり、旅行用バッグの新定番として注目を集める。発表同年にショルダーストラップ付きの「キーポル・バンドリエール」も導入される。愛称として「Tient-tout(ティヤン・トゥ)」「Globe-Trotter(グローブ・トロッター)」の名でも呼ばれた。
1930年 キーポル アイボリー・キャンバス(再現画像)
1930年 キーポル アイボリー・キャンバス(再現画像)©BrandJOY Archives
1930年 キーポル ブラウン・キャンバス(再現画像)
1930年 キーポル ブラウン・キャンバス(再現画像)©BrandJOY Archives
  • 1959年 – ルイ・ヴィトンのキャンバス素材が改良され、柔軟性の高い塩化ビニルコーティングの現行モノグラム・キャンバスが開発。この素材革新により、キーポルも従来のコットンキャンバスからモノグラム・キャンバス地へと本格移行。以後、モノグラム柄のキーポルが定番化する。
モノグラムキャンバス ©Louis Vuitton

  • 1960年代 – モノグラム柄のキーポルが世界的な人気商品に。エレガントな旅行鞄として定着し、ヴィンテージとなった現在でもこの時代のモデルが中古市場で高値で取引されるほど。以降長らくデザイン不変のまま生産が続けられる。
©BrandJOY Archives

  • 1980年代 – エピ革(型押しレザー)のラインが登場。1985年に発売開始されたエピ・レザーはルイ・ヴィトン初の本格的なカラーレザーラインで、キーポルにもブラックやレッドなど色と質感の異なるエピ・レザー製キーポルが追加される。キャンバスとは一味違う高級感からビジネス用途にも適し、新たな顧客層を開拓。
  • 1990年代 – ダミエ・キャンバスの復刻。初代当主のルイ・ヴィトンとその息子ジョルジュ・F・ヴィトン親子が1888年に考案した市松模様のダミエ柄が再び注目され、1996年にモノグラム誕生100周年を機に現代的に復刻される。キーポルにもブラウン系のダミエ・エベヌ柄モデルが加わり、シックな印象で人気を博す。1990年代後半にはタイガ(Taiga)レザーなどメンズ向けシックな素材のキーポルも登場し、ラインナップが拡充。
  • 2001年 – マーク・ジェイコブスによるアーティストコラボ第1弾、スティーブン・スプラウスの「モノグラム・グラフィティ」コレクションが発表。伝統的なモノグラムキャンバスにネオンカラーの手書き風グラフィティ文字を重ねた斬新なデザインで話題となる。キーポル45にもグラフィティ柄モデルが登場し、限定アイテムとして発売された。ストリートアートとハイブランドの融合という先駆的試みにより、この限定キーポルは現在でも高いコレクター価値を持つ。スティーブン・スプラウスは2004年に死去したが、2009年にルイ・ヴィトンとマーク・ジェイコブスは彼を称えて、新たな「モノグラム・グラフィティ」と「モノグラム・ローズ」シリーズを発表した。
  • 2003年 – 日本人アーティスト村上隆とのコラボによるマルチカラー・モノグラム(白地に33色のLVパターン)やモノグラム・チェリーブロッサム(桜と笑顔のキャラクター柄)などが発表。キーポル自体は主にこれらのコレクションでは小型バッグが中心だったが、同時期に定番外で「キーポル・ミニ」のような小ぶりサイズも試験的に展開される。
  • 2006年 – 「モノグラム・ミロワール」(Monogram Miroir)ラインが登場。銀鏡のように光沢のあるメタリック加工を施したキャンバスで、シルバーとゴールドの2色展開。キーポルもこの限定ラインで発売され、大きな反響を呼ぶ。同年、ダミエ柄の新色として黒×グレーのダミエ・グラフィットが開発され、翌2008年にメンズラインとして正式投入される。以後、ダミエ・グラフィット柄のキーポルは男性人気の定番に。画像は2024年のLV SKI コレクション キーポル·バンドリエール 45 モノグラム・ミロワール。
  • 2008年 – 村上隆との2度目のコラボとして「モノグラム・モフラージュ」(Monogramouflage)柄が限定発売。モノグラムと迷彩柄を融合させたユニークなデザインで、キーポル50が少数生産され即完売する。同年発表のダミエ・グラフィットと合わせ、伝統とモダンを兼ね備えた新生キーポルのイメージを確立。
  • 2010年代前半 – 毎年のように数量限定のコレクターズ・キーポルが発表されるようになる。2010年にはスプラウスのローズ柄、2011年には藤原ヒロシのFragmentコラボ(黒モノグラムにテキストデザイン)、2012年には草間彌生のドット柄キーポルなど、アート・ファッション界とのコラボを積極展開。既存ラインでも2011年にダミエのネイビー×黒配色ダミエ・コバルト、2014年に茶系ダミエ・マカサーなど、新色素材を相次ぎ導入。
  • 2016年 – メンズラインの新キャンバスとして「モノグラム・エクリプス」が登場。伝統のモノグラム柄を黒×グレーの落ち着いた配色にしたもので、同年コレクションでキーポルなどに採用。シンプルでシックなエクリプスはビジネスユーザーからストリート層まで幅広く支持され、定番素材の一つとなる。
  • 2017年 – ストリートファッションブランドSupreme(シュプリーム)との歴史的コラボレーションが実現。真っ赤なエピ・レザーに巨大な「Supreme」ロゴを配した「キーポル・バンドリエール45」が発表され、世界的なブームを巻き起こす。限定発売ながら即完売し、二次市場では数倍の価格が付くなど社会現象となった(写真:下記参照)。同年、藤原ヒロシ主宰のFragment Designとのコラボでも黒いエピ地に白字で「Louis Vuitton」のテキストが入った限定キーポルが登場している。
  • 2018年 – オフホワイトの創設者ヴァージル・アブローがルイ・ヴィトンのメンズ芸術監督に就任。彼の初コレクションで発表された「キーポル・プライズム」は、透明な虹色PVC素材で作られた前代未聞のキーポルとして注目を浴びる。さらに巨大なチェーンをあしらったものや、クラシックなモノグラムにカラフルなアクセントを加えたものなど、ヴァージルは伝統のキーポルを次々と再解釈しました。この年以降、キーポルは従来の旅行バッグの枠を超えたファッションアイテムとしてますます存在感を高めている。
  • 2020年代 – 近年のミニバッグトレンドを受け、従来の旅行サイズではなく日常使いできる小型版「キーポルXS」やアクセサリーポーチ的な「キーポル・バンドリエール25」(25cm幅)なども登場。2021年には従来型のキーポル(バンドリエール無しモデル)が一時生産終了の噂も報じられましたが、現在も定番の旅行バッグとしてモノグラムやダミエ、各種新素材で継続的に展開されています。2023年には新たなメンズディレクターにファレル・ウィリアムスが就任し、早速彼の手掛けるドットや迷彩柄を融合させた新作キーポルが発表されるなど、常に新しい解釈が加えられアップデートが続いている。

2006年に登場したメタリックな「モノグラム・ミロワール」仕様のキーポル。鏡のような光沢のあるキャンバス地にヌメ革のハンドルとトリミングという大胆なデザインは当時大きな話題となりました。現行でも2024年11月に「LV SKI」コレクションで再解釈されて、新たなモノグラム·ミロワールで仕上げたキーポル·バンドリエール 45が登場しています。

2017年のSupremeコラボで発売されたキーポル45(エピ・レザー、レッド)。ストリートブランドとの異色コラボレーションは世界的なブームを呼び、発売直後から入手困難となりました。真紅のエピ素材に白で大書された「Supreme」ロゴがインパクト抜群です。


参考資料・出典:Louis Vuitton公式サイト、Sotheby’s記事​、Weekly Lux Drop記事​、その他ブランド解説サイト

STORY

  • ルイ・ヴィトン200年の物語
  • Héritage(エリタージュ)LV

このコラムについて

この、Héritage(エリタージュ)L.Vuittonのコラムでは、14歳で故郷を旅立った少年、ルイ・ヴィトンの夢が世界を魅了するまでの、200年のストーリーをたどります。

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