2026.02.12
カテゴリ: 新作
ルイ・ヴィトン「エスカル」、ワールドタイムからミニッツ・リピーターまで旅を刻む5つの新作ウォッチ
旅先でふと腕元に目を落とした瞬間、その日の出来事や訪れた街の空気までも鮮やかによみがえることがあります。ルイ・ヴィトンのウォッチコレクション「エスカル」は、まさにそんな記憶の断片を、複雑機構と美しい意匠でそっと留めておくようなシリーズです。伝説的なトランクから続くメゾンのストーリーを背景に、ワールドタイムは世界中のタイムゾーンを、ツインゾーンは互いに離れた2つの地を、そしてミニッツ・リピーターは音色で時間を紡ぎます。タイムピースでありながら、身に着ける人それぞれの旅の記録を重ねていく「エスカル」は、機能と感性を両立させたい人のパートナーとして、今シーズンさらに進化を遂げています。

「ルイ·ヴィトン エスカル」:高度な複雑機構の世界への旅
2024年にデザイン言語と構成を一新した「エスカル」コレクションが、ここからさらにスケールアップした旅へとこぎ出します。今回のアップデートでは、オート オルロジュリーの名にふさわしい複雑機構を備えた4つの新キャリバーが開発され、それらを搭載した5つの新作モデルがパーマネント コレクションに加わります。その背景にあるのは、もともと旅の真髄と結び付き、フランス語で「寄港地」を意味する名を与えられた「エスカル」が、発見のロマンを象徴する存在として育まれてきた歴史です。旅路の途中で出合う港のように、新生「エスカル」はメゾンのウォッチメイキングに新たな停泊地を拓きながら、次の目的地へ視線を向けています。
今回披露された新作は、いずれもルイ・ヴィトンを代表する伝説的なトランクからインスピレーションを得たものです。その中でもひときわ象徴的なのが、「エスカル ワールドタイム」の新しい姿です。メゾン独自のサヴォアフェールと自社製ムーブメントによってアイコンが再構築され、「エスカル」では初となるプラチナケースをまとって登場します。5つの新作はそれぞれ、旅のエスプリを異なるスタイルで表現しながらも、ムーブメントの構造、ウォッチとしての目的、そして外観のデザインが高いレベルで調和することを共通のテーマとして掲げています。
ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングが歩んできた近年の変化について、ジャン・アルノーは新生「エスカル」をその延長線上に位置付けています。過去4年間にわたって続けてきた改革の流れの中で、歴史的なアイコンである「ワールドタイム」をクラフツマンシップの新たな高みへ導くことは、チームにとって大きな挑戦だったといいます。その結果として生まれたモデルでは、ケースの造形からダイアルの構成、ムーブメントの仕上げに至るまで、あらゆるディテールが検証され、徹底して見直されています。
同じくジャン・アルノーは、新しい「エスカル」コレクションの魅力を支える重要な要素として、世界各地の時刻を瞬時に把握できる複雑機構「ツインゾーン」の採用を挙げています。この機構は、時計師ミシェルとエンリコが10年前に手掛けた複雑機構に、さらなる工夫を加える形で生み出されたものです。過去の技術的成果を踏まえつつ、旅をテーマにしたコレクションにふさわしい実用性と遊び心を加えることで、新章の「エスカル」にふさわしい時間表現が完成しています。
「エスカル ワールドタイム」:アイコンの復活
2014年の誕生以来、「エスカル」コレクションの顔として知られてきたのが「エスカル ワールドタイム」です。世界24のタイムゾーンを同時に表示するこのモデルは、複雑機構を備えたコレクションの代名詞的存在であり続けてきました。2026年には、そのアイコンがメティエダールとオート オルロジュリーを融合させた2つのプラチナモデルとして再解釈されます。磨き上げられたプラチナケースをまとった新作は、「エスカル ワールドタイム」のストーリーに新たな節目を刻む位置付けとなります。
2種類のプラチナモデルのうち、1つ目はワールドタイムリングにミニチュアペインティングを用い、歴史的なモノグラム・キャンバスの質感を讃えるような表現が特徴です。センターには、時刻の読み取りやすさを重視したグレイン仕上げのブルーのダイアルが配され、アイコンであるワールドタイムモチーフを現代的な視点から再解釈しています。おなじみの表示スタイルを受け継ぎながらも、新たに開発された自社製ムーブメントLFT VO 12.01が複雑機構を進化させ、「エスカル ワールドタイム」の新時代の幕開けを告げる存在となっています。
もう一方のモデル「エスカル ワールドタイム トゥールビヨン」は、オリジナルの構成を大切に引き継ぎつつ、芸術的な側面を一段と押し広げた一本です。ダイアル上のフラッグデザインはグラン・フー エナメルで表現され、手仕事ならではの質感と色の深みが際立ちます。その中心にはフライングトゥールビヨンがレイアウトされ、静かな佇まいの中に動きのある表情を与えています。ダイアル中央で回転するトゥールビヨンの存在が、複雑機構の魅力と視覚的なドラマの両方を兼ね備えたデザインへと導いています。
生き生きとした色彩の世界
「エスカル ワールドタイム」を特徴づけるダイアルには、世界各都市を象徴する24のフラッグモチーフが円環状に並びます。これらはすべて、職人の手によるミニチュアペインティングで彩られたものです。この精緻な技術を担うのが、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」内に設けられたメティエダール専門アトリエ「ラ・ファブリク・デ・ザール」です。極細の絵筆を使い、35色もの色を1色ずつ丁寧に塗り重ねていく作業は、非常に繊細な注意力を要します。塗料をしっかりと定着させるため、色を加えるごとにダイアルをオーブンに入れて乾燥させる工程を繰り返し、1枚のダイアルを完成させるまでに丸1週間という時間が費やされます。
フラッグの意匠には、ルイ・ヴィトンの歴史と深く結び付いた多くのモチーフが反映されています。例えば、トランクの内張りに用いられてきた交差するひし形模様のステッチ「マルタージュ」や、シグネチャーとして知られるダミエ・キャンバスなどが、その発想源になっています。さらに、モノグラム・フラワーのパターンがミニチュアサイズで精巧に再現されており、創業者ルイ・ヴィトンの孫 ガストン-ルイ・ヴィトンの特徴的な「V」マークと並んで、パリという都市のイメージを詩的に表現する役割を担っています。
「エスカル ワールドタイム トゥールビヨン」のダイアルを縁取るフラッグは、通常の顔料ではなく、いずれもエナメル技法によって表現されている点が大きな特徴です。各色は職人の手作業で塗布され、730°Cから840°Cの温度帯で5層に分けて40回以上の焼成を行うという手間をかけて仕上げられます。鮮やかなグリーンや柔らかなピンクといった色合いは特にデリケートで、1〜2度の焼成にしか耐えられないため、工程の最後に慎重に施されます。その後、完成したエナメルディスクを丁寧に研磨することで、他にはない奥行きと輝きが生まれます。こうした一連のプロセスには、熟練したエナメル職人が約2週間、合計80時間にわたり向き合うことが必要とされています。
プラチナをまとった「エスカル」
今回の新作では、「エスカル ワールドタイム」が初めてプラチナケースをまとうモデルとして登場します。この素材を採用することで、コレクション全体に一段と深みのある重厚感と存在感が加わりました。ケースバックにはサフランカラーのサファイアがさりげなくセットされており、控えめな彩りがプレシャスメタルの静かな輝きを引き立てる役割を果たしています。
プラチナという素材について、マチュー・エジはその特別性を強調します。名称から受ける印象どおり、象徴的な意味においても重みのある存在であり、アトリエの世界では古くから敬意を集めてきたと語ります。その美しさが広く称賛される一方で、加工や仕上げの難しさゆえに、職人たちの間ではどこか畏怖の感情も伴う素材とされています。こうした複雑な感情が、プラチナケースの時計に独自のオーラをもたらしています。
旅する人のためのデザイン
「エスカル ワールドタイム」に搭載されたキャリバーLFT VO 12.01は、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」において完全に自社開発・製造された自動巻きムーブメントです。伝統的なオート オルロジュリーへの敬意と情熱が凝縮されたこのキャリバーは、24の異なるタイムゾーンの時刻を分かりやすく表示するために設計されています。リューズ操作だけで基準都市とローカルタイムの両方を容易に調整できる仕組みを持ち、ジャンピングアワーディスクの採用によって視認性が向上。ダイアル上の情報を瞬時に読み取れる構成になっており、旅のシーンでも実用性を発揮します。
定番のワールドタイムモデルに加えて、新たに「エスカル ワールドタイム トゥールビヨン」がコレクションに加わります。このモデルに搭載されるのは、自社製キャリバーLFT VO 05.01です。自動巻きのムーブメントでありながら、ダイアル中央には名前の由来である複雑機構トゥールビヨンが配されています。旅の時間をより豊かで印象的なものにすることを目指し、オート オルロジュリーのノウハウを凝縮した一本として、「エスカル」コレクションの中でも特別な位置付けを占めるモデルになっています。
「エスカル ワールドタイム」のダイアル中央にフライングトゥールビヨンを据えるという構想は、まずムーブメント全体の構造を根底から組み直すことからスタートしました。「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」の開発チームは、回転する都市ディスクとトゥールビヨンという2種類の複雑機構を、ひとつの限られた空間の中に収めるという課題に向き合うことになります。互いのメカニズムを干渉させずに同居させるためには、極めて高い精度の管理と、立体的なレイアウトの工夫を突き詰める必要があり、このプロジェクトは空間的な創意性と技術の粋が求められる偉業となりました。
そうして生み出された回答が、60秒ごとに1回転するスターシェイプのモノグラム・フラワー トゥールビヨンです。フライングケージ構造を採用しているため、通常であればケースの奥に隠れている細かな部品までもが視界に現れ、メカニズムそのものが姿を現します。開放的なデザインによって光がさまざまな角度から差し込み、トゥールビヨン上で反射することで、ダイアル中央に生まれる光の揺らぎが強調されます。その輝きが視線を自然と中心へと導き、時の流れを視覚的な体験として感じさせます。
ミシェル・ナバスは、「ワールドタイム」においては、時刻表示を切り替える機能面だけでなく、時計全体の動きそのものが重要なテーマだったと語ります。タイムゾーンの間をどう移行させるかという実用性に加え、ウォッチがまるで生きている存在のように感じられる表現を追い求めてきたという考えです。その結果、ダイアルの中心にフライングトゥールビヨンを配した構成にたどり着き、そこから放たれるエネルギーが増幅することで、複雑機構に鼓動のようなリズムが宿った、と彼は説明しています。
「エスカル ツインゾーン」:ユニバーサルなトラベルコンプリケーションにもたらされる新たな精度
世界を旅する人々が、移動先でも正確な時刻を知る手段を求め続けてきた歴史は長く、その過程で2つの代表的な解決策が生まれました。ひとつは、24の主要タイムゾーンの時刻を一度に表示できるワールドタイムと呼ばれる複雑機構であり、もうひとつは特定の2つのタイムゾーンをわかりやすく表示するデュアルタイムウォッチです。しかし、協定世界時との時差が30分単位や45分単位で区切られている地域に対しては、どちらの方式も十分に対応しきれないという限界を抱えていました。この課題が、新たなアプローチの必要性を浮き彫りにしていました。
その課題に応える存在として登場したのが「エスカル ツインゾーン」です。一見シンプルな表示に見えながら、その裏側には複雑で洗練されたメカニズムが組み込まれており、従来のトラベルコンプリケーションの概念を押し広げています。暖かみのあるローズゴールドケースで表現されたバージョンと、プラチナを用いたオート ジュワイアリー仕様の2タイプが用意され、現代の旅人が求める高精度と汎用性を象徴するモデルとして提案されています。
あらゆる2つのタイムゾーンを1つのダイアルで表示
「エスカル ツインゾーン」が採用したのは、1本の軸上に2組の針を重ねて配置する構造です。これまでのGMTウォッチが追加の時針を1本重ねる手法を取ってきたのに対し、ツインゾーンでは分針も独立して調整できるようにすることで、その枠を超えています。協定世界時との時差が標準から外れている地域を含め、世界中のあらゆるタイムゾーンで分単位の調整を可能にし、太い針でローカルタイムを、スケルトンの針でホームタイムを示すことで、2つの時間軸を直感的に読み取れるよう構成されています。
日常的なシーンでは、スケルトン針をダイアル下に収納することができ、その状態では時刻表示だけに集中した落ち着いた表情のウォッチとして機能します。表面には時間を示す針とインデックスのみが際立ち、エングレービングされた地球儀の上部に控えめに配されたデイ&ナイトインジケータだけが、多タイムゾーン機能を秘めたモデルであることをさりげなく伝えます。シンプルな装いに見えて、実はグローバルな時間を抱え込んでいる構造が魅力です。
「ツインゾーン」が本領を発揮するのは、新しい目的地に到着した瞬間です。現地時間への切り替えは、リューズを軽く引いて操作するだけという直感的なプロセスで完結します。操作は簡潔かつ素早く、24の標準タイムゾーンの間を移動する場合には、スケルトン分針を隠した状態のまま、ローカルタイムを示す時針だけを1時間単位で前後させることができます。移動の多い旅程の中でも、ストレスを感じることなく現在地の時間に合わせられる実用性が備わっています。
さらに、必要に応じて追加の分針を独立して調整できる点が、このモデルの大きな強みです。世界中のどの2つのタイムゾーンであっても、分単位の精度で時刻を表示することが可能になります。ホームタイムと連動したデイ&ナイトインジケータのおかげで、今いる場所から見たときに母国が昼か夜かを一目で把握できる点も魅力です。調整の操作はすべて2ポジションのリューズのみで行われ、ケースサイドに余分なパーツを必要としないため、「エスカル」らしいクリーンなケースフォルムがきれいなまま保たれています。
トラベルコンプリケーションの新たなスタンダード
こうした「エスカル ツインゾーン」の特性は、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」で新たに開発された自社製キャリバーLFT VO 15.01に集約されています。複数の時間表示と精密な調整機構をひとつのムーブメントに組み込むことで、外観はミニマルでありながら、内部にはトラベルウォッチとしての高度な機能が凝縮された構成になっています。
1本の軸に4本の針を重ねて収めるムーブメントの開発は、時計師たちにとって非常に独特な難題となりました。従来型のGMT表示と異なり、「ツインゾーン」の構造では4本目の針を正確に動かすための綿密な調整が不可欠で、そこに高度な技術が要求されます。さらに、15分単位および30分単位での調整機構を組み込む必要もあり、協定世界時との標準的な時差から外れた地域でも、着用者がホームタイムを高い精度で合わせられるよう配慮が行き届いた仕組みになっています。
プラチナをまとったプレシャスなモデル
プラチナの静かな光をまとった「エスカル ツインゾーン」の新作では、アベンチュリンダイアルの上に散りばめられた光の粒が浮かび上がり、夜空を流れる星座を連想させる表情を描き出します。ダイアル外周を縁取るフランジ部分には、ファセットカットを丁寧に施したダイヤモンドが並び、天空のきらめきを一層引き立てる役割を担います。全体の構成はどこか建築的な力強さを持ちながら、同時に幻想的で優美なムードも漂わせており、ダイヤモンドの連なりがそのリズムを視覚的に整えています。
ダイアルに施されたジェムセッティングは、経線と緯線が刻まれたアベンチュリンの中心を囲むように配された120個のバゲットカットダイヤモンドが主役です。バゲットセッティングが施されたダイアルフランジには、時間を示す目印としてブルーのスタッズが配されており、アベンチュリンの深いブルーと呼応することで、全体に統一感のある視覚的ハーモニーが生まれています。時刻表示と星空のイメージが重なり合うような、詩的なダイアル表現が印象に残ります。
この天体的なリズムは、ダイアルにとどまらずケースやベゼルへと連続しています。ケースバンドには、3列のインビジブルセッティングを含む170個のバゲットカットダイヤモンドがセットされ、側面からの光も取り込みながら立体的な輝きを放ちます。リューズにはローズカットダイヤモンドがあしらわれ、フォールディングバックルには11個のバゲットダイヤモンドが配されています。仕上げとして、磨き上げられたケースバックの中央にはサフランカラーのサファイアが1石セットされており、プラチナケースであることを象徴的に示すディテールとなっています。オート ジュワイアリーとオート オルロジュリーが交差するこの一本には、メゾンが培ってきた幅広い技術力が惜しみなく注ぎ込まれています。
「エスカル ミニッツ·リピーター」:伝統の音色
「エスカル ミニッツ・リピーター」は、「エスカル」コレクションに新たな情感を加える存在として位置付けられています。世界各地の時間を読み取るという実用性の側面を担うのが「ワールドタイム」と「ツインゾーン」だとすれば、ミニッツ・リピーターは、ルイ・ヴィトンのウォッチメイキングに根付くサヴォアフェールを音によって表現する役割を果たします。旅の真髄を機能で示すモデルと対を成すように、「エスカル」の世界観の中に感覚的な豊かさをもたらすピースとして登場しているのが、このモデルです。
ギョーシェ彫りが醸すエレガンス
「エスカル ミニッツ・リピーター」の美しさは、自社製キャリバーの高度な複雑さを起点に、まずダイアルに表現されています。視認性の高さを意識したレイアウトや、幾何学的なシンメトリー、そして伝統的なサヴォアフェールの組み合わせは、すべて綿密に計算されています。そのうえで、ダイアル全体にはルイ・ヴィトンを象徴するトランクへのさりげないオマージュが込められており、機構とデザイン、アイコン的モチーフが静かに共鳴する構成になっています。
このトランクとのつながりを強調しているのが、ダイアルの随所に散りばめられた控えめなディテールです。ミニッツトラックの両端には、トランクの金具を思わせる意匠が配され、ビスのようなマーカーがアクセントとして効いています。ダイアルの主役を務めるのは伝統的なギョーシェ彫りであり、何世紀にもわたって受け継がれてきたこの装飾技法と、現代的で建築的なレイアウトが組み合わさることで、「エスカル」らしい表情が生まれています。
中央のダイアルは、伝統的なローズエンジンを用いて職人が手作業で仕上げたフレイムギョーシェ模様で彩られています。中心から放射状に広がるパターンが光をとらえて反射し、見る角度によって表情を変えるつくりです。工具を何度も当てながらモチーフを彫り進めることで、深さと圧力の両面で驚くほど均一な仕上がりを実現し、光沢のある表面がレトログラード分針へ自然と視線を導きます。ギョーシェ彫りのダイアルには合計60時間もの作業が費やされ、その後、特徴的なグレーの色味を引き出すために丁寧な着色工程が施されます。
共鳴するデザイン
コレクションを象徴する「エスカル」ケースの内部には、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」とジェラルド・ジェンタが共有してきたウォッチメイキングの伝統から生まれた手巻きキャリバーLFT SO 13.01が収められています。このムーブメントは、1990年代にジェラルド・ジェンタのもとで腕を磨いたミシェル・ナバスとエンリコ・バルバシーニによって開発されたものであり、彼らの経験と美学が現代の「エスカル」に受け継がれていることを物語っています。
ミニッツ・リピーターとジャンピングアワーという組み合わせは、現代のウォッチメイキングにおいて非常に希少な存在と言えます。この構成を成立させるためには、時間を音で伝えるハンマー打ちの機構と、表示を瞬時に切り替えるジャンピング表示という、性質の異なる二つの時間計算システムを同期させなければなりません。しかも、それぞれが確かな信頼性を保ちつつ、エネルギー効率も損なわないよう調整する必要があり、この条件を満たすことが大きな挑戦となりました。
視覚と聴覚の双方で違和感のないハーモニーを実現するために整えられたこれらの整合性は、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」が持つ技術的な優位性を示す証のひとつです。ミシェル・ナバスとエンリコ・バルバシーニは、デザイン界の巨匠ジェラルド・ジェンタと長年にわたり協働してきた経験を背景に、複雑機構の開発で培った知見をこのムーブメントに注ぎ込みました。その結果として、目で追う時間と耳で感じる時間が、美しく重なり合うようなソリューションが形になっています。
キャリバーを構成する音響パーツは、すべて綿密な調整を経ています。ブラックポリッシュ仕上げが施されたハンマーとゴングは、職人の手で成形や切削、微調整が繰り返され、最適な振動と振幅を確保するよう整えられます。そのうえで、熟練した職人が自身の耳を頼りに音色を吟味しながらチューニングを進め、澄んだ明瞭さと十分な音量を兼ね備えたクリスタルのような響きを生み出します。ミニッツ・リピーターの音を支えるのは、作動時もほとんど音を立てない遠心調速機であり、この機構を固定する八角形のブリッジが、ジェラルド・ジェンタの美意識を想起させながら、ルイ・ヴィトンとジェンタのレガシーを視覚的に結び付けています。
LFT SO 13.01は、その構造の巧みさだけでなく、組み立てから仕上げまでに4週間以上の時間を要する点でも、オート オルロジュリーの高い基準を満たしています。ムーブメントの各パーツには、伝統的なコート・ド・ジュネーブ装飾や、手作業で磨き上げられたアングラージュ、ベースプレートに施された繊細なスネイル仕上げなどが取り入れられています。細部にまで行き届いたこうした意匠が、「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」に息づく職人技を雄弁に物語っています。
「エスカル ミニッツ・リピーター」は、ひと目見ただけではその複雑さを感じさせない表情を持っています。しかし、視線を近づけて観察すると、ミニッツ・リピーターを起動するためのスライドがラグのデザインに自然に組み込まれていることに気付きます。これは従来のミニッツ・リピーターが採用してきた外装デザインからの、静かながら意味深い変化であり、複雑機構とケースデザインの一体感を追求した結果といえます。
このようなアプローチを実現するためには、機能と美しさの両方を成立させるためにムーブメント構造を一から見直す必要がありました。その結果、技術的な完成度を損なうことなく、ウォッチ全体の優雅な佇まいを保つシームレスなデザインが完成しています。外観からは静けさが漂いながらも、その内側には複雑機構のダイナミズムが秘められているという、二層的な魅力を備えた一本です。
帰郷
こうして「エスカル」コレクションに加わった新たなモデル群は、伝統的なオート オルロジュリーの世界と、ルイ・ヴィトンが大切にしてきた旅の真髄を結び付ける新しい道しるべとしての役割を担います。時間を知るための道具であると同時に、旅の記憶や感情を映し出す存在として、メゾンのウォッチメイキングの今を象徴するコレクションに仕上がっています。
それぞれの役割を振り返ると、「ワールドタイム」は色彩豊かなダイアルと光をまとって、世界中を巡る記憶の地図を描き出すモデルとして存在しています。「ツインゾーン」は、2つのタイムゾーンを分単位の精度で、しかも一目で把握しやすい形で表示することに徹した、精度へのこだわりが際立つモデルです。そして「ミニッツ・リピーター」は、こうした時間表示の調和に音の要素を加え、機構の動きを豊かな音色へと昇華させる役割を担っています。
「エスカル」コレクションの各ウォッチは、デザイン、機能、そして感覚的な体験という三つの要素の調和を共通の理想として表現しています。「ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン」において、この理想はひとつの言語のように扱われており、卓越したクラフツマンシップと旅の真髄がひとつに結び付いた世界観として形になっています。腕元に宿るその世界観は、単なる時間表示を超えて、自分だけの物語を重ねていくためのプラットフォームのような存在になっていきます。
詳細は、ルイ·ヴィトン 公式サイトhttps://www.louisvuitton.com をご覧ください。
【Editor's View】
ルイ・ヴィトンの「エスカル」コレクションは、ラグジュアリーウォッチの世界で語られるスペックの高さだけに寄りかかるのではなく、旅というメゾンのDNAを軸に据えながら、時間との向き合い方そのものを提案している点が印象的です。ワールドタイムは世界を駆け巡る視線をダイアル上に投影し、ツインゾーンは離れた場所とのつながりを分単位の精度で可視化し、ミニッツ・リピーターは音を通じて記憶に残る時間を刻みます。そこに、伝統的なギョーシェやエナメル、ジェムセッティングといったメティエダールが重なり合うことで、技術と物語性がバランスよく共存するタイムピースとして成立していることが、このコレクションの大きな魅力です。ファッションとしてのルイ・ヴィトンに親しんできた人にとっても、「エスカル」はジュエリーやバッグとは異なる角度からメゾンの世界観に触れられる入り口になり、日常の装いに旅の余韻を忍ばせるような一本として心に残りそうです。
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