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フェンディが描く時代の輪郭、2025-26年秋冬コレクションを紐解く

フェンディが築いた100年の歴史は、単なるアーカイブではなく、今を生きる感性の中で新たに呼び起こされるべき記憶です。2025-26年秋冬の広告キャンペーンでは、シルヴィア・フェンディが祖父母から受け継いだメゾンの精神を、素材やシルエット、色彩を通して詩的に描き出します。過去に敬意を払いながらも、現代のファッションシーンに問いを投げかけるこのコレクションは、歴史や技巧だけで語るにはもったいないほど、感覚的かつ未来志向な試みに満ちています。洗練を求めるファッションラバーにとって、今季のフェンディはまさに観るべきアートです。

フェンディ100周年を祝う2025-26秋冬コレクション:記憶と未来が交差するアート的広告キャンペーン

Steven Meisel

フェンディ(FENDI)が発表した2025-26年秋冬ウィメンズおよびメンズコレクションの広告キャンペーンは、単なるシーズンのプロモーションではなく、ブランド100周年を彩る象徴的なアートピースとも言える内容に仕上がっています。シルヴィア・フェンディ(Silvia Venturini Fendi)は、1925年にローマ(Rome)で創業されたフェンディの歴史を、自身の記憶とリンクさせながら再構築。祖父母であるエドアルド・フェンディ(Edoardo Fendi)とアデーレ・カーサグランデ・フェンディ(Adele Casagrande Fendi)から受け継いだメゾンのDNAを、現代の視点で丁寧に紐解く試みが印象的です。時を超えて継承されるクラフツマンシップと、世代を越えて語られる物語が、ブランドの存在意義をあらためて浮き彫りにしています。

ミラノで開かれたファッションショーで、シルヴィアは「フェンディは、未来を感じさせてくれるブランド」と語りました。彼女は、記録資料としてのアーカイブに頼ることなく、自身の記憶に宿るフェンディ像をたどりながら、「フェンディ100」という節目に込められた意味を再定義しようとしています。これは、歴史をなぞる懐古主義ではなく、ブランドの過去・現在・未来を結び付ける感覚的な考察であり、ブランドを支持する洗練された感性を持つユーザーに、時代を越えた親近感を呼び起こすアプローチといえるでしょう。

シルヴィア・フェンディが紡ぐフェンディ100年の軌跡:2025-26年秋冬ファッションの現在地
Steven Meisel


今回のキャンペーンの背景となったのが、リニューアルされたミラノのショールームです。そこでは、かつてローマのボルゴニョーナ通り(Via Borgognona)にあったフェンディの歴史的サロンの情景が、幻想的な美しさで再現されています。木の装飾が施された重厚な扉の先には、豪奢なカーペット、ソファ、そしてシャンデリアが配置され、昼はオーダーメイドの顧客が、夜には世界を旅するジェットセッターが集っていたというエピソードが想起されます。かつて5人姉妹がともに働き遊んだこの空間には、記憶と秘密が織り込まれ、フェンディの物語にさらなる奥行きを加えています。

ハンドバッグと高級ストールを起点に歩んできたフェンディの歴史は、シルヴィアの手でさらに拡張され、フェンディ特有の皮肉やユーモアに満ちた視点が加わることで、ブランドの世界観に新しい光が差し込んでいます。今回のコレクションでは、ウィメンズとメンズの両ラインにおいて、イタリアらしい上品さを保ちつつも、従来の型にとらわれない発想が随所に表れています。服そのものが語りかけてくるような立体的な存在感は、ただ身にまとうだけでは満足できない感度の高いファッションユーザーに訴求する内容です。

ファッションショーのオープニングルックでは、視覚的な錯覚を誘う素材使いが印象的でした。高さのある襟とゴールドのベルトでウエストラインを強調したフレアコートは、まるでドレスのような華やかさを放ちます。また、フォックス、ミンク、セーブルの風合いを再現したシアリング素材に、伝統的には高級ファーで使用されていたインターシャ、ハニカム、ゲロナートの技法を組み合わせることで、手仕事の妙が際立っています。砂時計を想起させるフォルムは、サテン素材のバルザスカートや、立体的な袖のコロラジャケットで巧みに表現されており、タイムレスな美を求める層に響くでしょう。

ドレスやスカートでは、動きのあるデザインと素材の融合が際立っています。フリルレタスを思わせる裾のプリーツニットドレスや、イールレザーとラムレザーのパッチワークが織りなすAラインのシェブロン柄スカートは、スタイルに立体感と軽やかさを与えます。さらに、メンズでは隠しマーチンゲールが施されたコクーンコートが、オペラ的なドラマティックさを漂わせています。カラー展開もまた注目すべき点で、自然を感じさせる深みのあるグリーンやチョコレートカラーから、ローマの夕暮れを思わせるシナモンやバブルガム、ダスティローズまで、時間の流れを色で描くような繊細な演出が印象的です。

テーラリングの技術は今回のコレクションでも健在で、特にウィメンズのブレスレットスリーブ付きブレザーや、メンズのストーブパイプフレアなどにその洗練が光ります。ボイルドウール素材のコートは、内部にあしらわれたサテンの裏地との対比により、構築美が際立ちます。また、イタリアのパワードレッシングを象徴するトレンチコートには、ラムスキン素材が採用され、さらにプリーツタフタのスカーフカラーなど、変化に富んだディテールが多く見受けられます。メンズバッグには、パウダリーなニュアンスを持つウール素材が使われており、細部にわたる配慮と丁寧な仕事が、ブランドへの信頼感をさらに高めています。

今季のフェンディでは、シアリングストールがウィメンズとメンズ双方で重要な役割を果たしています。ジュエルトーンのカーディガンや、ランジェリードレス、あるいは透け感のあるジョーゼットブラウスと重ねることで、重厚感と軽やかさが絶妙に共存するシルエットが完成します。このストールは、エレガンスとカジュアルが交差する現代の装いにぴったりのアイテムであり、特にレイヤードスタイルを好む都会派のファッショニスタにとって、実用性と美しさを兼ね備えた理想の一品といえるでしょう。また、フェンディのアトリエが誇るレザー加工の技術は、ディアスキンとスエードのリバーシブル仕立ての「セレリア(Selleria)」コートや、プリントではなくインターシャによって描かれた幾何学的なオプ・アートコートに集約されており、視覚的な芸術性と素材へのこだわりが融合したアプローチが印象的です。

サテンスカートに施されたウェーブキルティングや、ゆったりとしたドレープが特徴的なビショップスリーブ調のフォーマルドレス、そしてミラーやクリスタルを用いた精緻な刺繍が織りなすコントラストは、夜のローマを彷彿とさせる幻想的な魅力を放っています。さらに、カシミア素材にシャンティイレースを組み合わせたツインルックやピンストライプのシュミーズは、フェミニンとマスキュリンの境界を曖昧にし、装いに新しい価値観を与えています。そして、チュールのフリンジとスパンコールによる繊細な装飾は、ミッレフォッリエ(millefoglie)技法によるイブニングアンサンブルに命を吹き込み、贅沢でありながらも羽のように軽やか。フェンディらしいクラフツマンシップが、細部にまで行き届いています。

アクセサリーコレクションでは、フェンディらしい遊び心とモダンな視点が交差します。なかでも「フェンディ ジャーノ(FENDI Giano)」は、月のかたちを模したシルエットと、ひねるだけで開閉できる構造という機能性を兼ね備えた、実にユニークなバッグです。クラッチとしてもショルダーとしても使える柔軟性と、ツートンカラーのカーフスキン、両面に施された「フェンディ スクワレル(FENDI squirrel)」とヤーヌス神(Janus)の肖像が、物語性とデザイン性を兼ね備えています。デイリーにもイブニングにも対応できるこのバッグは、ユニセックスな感覚を求める次世代ユーザーのニーズにマッチしています。

復活を遂げた「フェンディ スパイ(FENDI Spy)」バッグは、2000年代の記憶を呼び起こしながらも、ソルベカラーのシアリングとツイストハンドルによって、現代的な感性をまとっています。このリデザインは、ヴィンテージ感とモダニティを自在に行き来するZ世代やY世代にとって、タイムレスな魅力を放つプロダクトです。そして「ピーカブー(Peekaboo)」と「バゲット(Baguette)」は、新しいテクスチャーと素材によって、フェンディの永遠のアイコンとして再解釈されています。シアリングのインターシャ、ディスコスパンコール、スエードの技巧は、視覚と触覚の両方に訴える仕上がりで、単なるバッグではなく“パーソナリティを纏う装置”としての存在感を放っています。

フェンディのバッグコレクションは、クラフツマンシップと創造性の極致ともいえる内容に進化しています。レオパードウォータースネークやミラー刺繍を用いた装飾は、視覚的な強度を持ちながらも過剰にはならず、洗練されたアティチュードを感じさせます。また、メンズラインでは「FF」ロゴ入りメタルが印象的な「フェンディ ルイ(FENDI Lui)」のソフトジップダッフルが登場し、ビジネスからカジュアルまで対応する万能さを備えています。さらに、「フェンディ マキシ(FENDI Maxi)」チャームには、アップサイクル素材を採用。サステナブルであることが意識の高いファッションユーザーにとって重要な価値である今、こうしたアプローチは高く評価されるはずです。

今季のフットウェアは、素材と構造の新しい出会いによって生まれ変わっています。トロンプルイユブーツとピープトゥスリッパは、サテンとイールレザーを組み合わせ、視覚的な錯覚と立体感を演出しています。また、スリムウェッジやポリッシュメタルを使ったヒールデザインは、女性らしさとエッジィな印象を巧みにバランスさせています。一方で、メンズ向けにはワイルドシアリングやソフトラムスキンを使用したデザートブーツがラインナップされ、寒い季節における実用性と贅沢さの両立を提案。シューズもまた、単なる付属品ではなく、スタイルの軸を担う要素として再構築されています。

ジュエリーコレクションでは、デルフィナ・デレトレズ・フェンディ(Delfina Delettrez Fendi)のクリエイティビティが冴えわたっています。カラフルなスネークチェーンやトランブランブレスレット、噴水をイメージしたシャンデリアイヤリング、スターリングシルバーのオベリスクペンダントなど、いずれも造形美とストーリー性を兼ね備えています。さらに、メンズ用には「FF」ロゴ入りのボールチェーンネックレスが登場し、ジェンダーを超えて楽しめるラインナップが整いました。これらのジュエリーは、スタイルを完成させる最後のピースとして、感性豊かな層に刺さる提案となっています。

今回のフェンディ2025-26年秋冬キャンペーンは、アートディレクションを担当したカオス(Chaos)と、フォトグラファーのスティーブン・マイゼル(Steven Maisel)のコラボレーションによって、視覚的にもコンセプチュアルにも高い完成度を実現しました。ブランド100周年という節目にふさわしく、ビジュアルは単なる広告の枠を超え、フェンディというメゾンの精神と未来を象徴するビジュアルマニフェストとも言える内容に仕上がっています。

Art Direction: Chaos
Photographer & Director: Steven Meisel
Make-Up: Dame Pat McGrath
Hair: Guido Palau
Set Designer: Mary Howard
Casting Director: Piergiorgio Del Moro

#FendiFW25

 
【Youtube:フェンディ ウィメンズの投稿が表示されます】

【Youtube:フェンディ メンズの投稿が表示されます】



 
 
 
 
 
 
 
 
       

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