2025.07.22
カテゴリ: イベント
ルイ·ヴィトン エスパス ルイ·ヴィトン大阪で草間彌生の創作宇宙を体感する、特別展示「INFINITY」を開催中
日常の輪郭をぼかし、視覚と言語の境界を揺さぶる草間彌生のアートが、ルイ・ヴィトン大阪の空間に満ちています。展覧会「INFINITY - SELECTED WORKS FROM THE COLLECTION」は、彼女の内面世界を映すかのような幻想的なモチーフとともに、反復や自己消滅といった深遠なテーマを視覚化する試みです。ファッションや現代美術に関心を持つ洗練された鑑賞者にとって、これは単なる展示ではなく、感性と思想を交差させる知的体験へとつながる特別な時間となるでしょう。
2025年の大阪・関西万博に呼応するかたちで、エスパス ルイ・ヴィトン大阪では、草間彌生の展覧会「INFINITY - SELECTED WORKS FROM THE COLLECTION」が2025年7月16日から2026年1月12日まで開催されています。前衛芸術の象徴として世界的評価を受ける草間の作品群が一堂に会するこの展覧会は、時代を越えた創造性の軌跡をたどる貴重な機会であり、同時に万博を訪れる国内外の来場者に、日本が誇るアートの真髄を体感させる装置ともなっています。
展示されるのは、1960年代初頭のニューヨークでの創作期から近年の新作に至るまでの幅広い作品。単なる年代順の紹介にとどまらず、草間が一貫して追求してきたテーマや美学の連なりを通じて、彼女の表現が世界のアート潮流にどのように呼応し、影響を与えてきたかを解き明かす内容となっています。展覧会は、フォンダシオン ルイ・ヴィトンの「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一環として開催され、東京、ミュンヘン、ヴェネツィア、北京、ソウルに続く国際的な巡回展の日本国内最終地でもあります。

絵画から彫刻、パフォーマンス、小説、ファッションデザインに至るまで、多岐にわたるジャンルで創作を展開してきた草間彌生。その表現は、反復や増殖といったモチーフを軸に、観る者の感性に直接働きかける圧倒的なエネルギーを放っています。今回展示される作品群からも、彼女がいかにして個の視点から普遍性を引き出し、多くの人々の内面と交差してきたかが明確に読み取れるでしょう。
草間の作品が持つ最大の魅力は、外的な潮流に左右されず、あくまで自己の内面を掘り下げた独自の芸術性にあります。ポップアートやミニマリズムなどの流れと並走しながらも、常に自分だけの言語を持ち続けた彼女の創作は、極めて個人的であると同時に、強く普遍的な力を帯びています。本展の新作群にもその軸は一貫しており、どの時代にあっても観る者の感情に鋭く切り込む迫力があります。

草間彌生の原風景を紐解くと、1929年に長野県松本市で誕生し、種苗業を営む家庭で植物に囲まれて育ったことがわかります。10歳の頃、家の中が花柄で覆い尽くされ、自らもその一部になるという幻覚体験を経て、視覚と現実の境界が崩れるようなイメージが彼女の中に根付きます。この強烈な記憶は後年の創作に繰り返し反映され、空間や自我の輪郭が揺らぐような作品群を生み出す原動力となっています。
草間自身が「自己治療(セルフセラピー)」と語る創作行為において、反復されるモチーフは、内面の恐れや不安を視覚的に変換する手段として機能しています。1960年代の代表作「無限の網」や「ドッツ」シリーズに始まり、近作では星や細胞、抽象的な形象へと展開を見せながらも、その本質は一貫しています。彼女の作品は単なるビジュアルではなく、心の奥底との対話を誘発する存在として、アートを超えた体験を観る者に与えます。
なかでも注目を集めているのが、《無限の鏡の間―ファルスの原野(または フロアーショー)》(1965年 / 2013年)です。これは草間が手がけた「無限の鏡の間」シリーズの第1作であり、無数のドットに囲まれることで訪問者は空間の端を見失い、感覚そのものが揺らぐ没入体験を得ることになります。加えて、2023年制作の《毎日愛について祈っている》も展示され、草間が長年続けてきた詩的なビジュアルと哲学的主題の融合が、あらためて現代の観客に問いかけを投げかけます。
「水玉」や「無限の網」に代表される草間のモチーフは、単なる視覚効果以上の意味を持っています。観る人を包み込み、彼女の言う「自己消滅」の感覚へと誘う構成は、自己と他者、個と宇宙といった境界を曖昧にし、体験者に一種の視覚的瞑想を促します。この展覧会は、アートを鑑賞するというよりも、体感し、内的に浸透させる機会であり、特に感覚的な刺激や空間体験を重視する現代のアートファンにとっては見逃せない内容といえるでしょう。


アーティストについて
草間彌生は1929年、長野県松本市に生まれ、現在も東京を拠点に創作を続けています。幼少期から絵画や文学に親しみ、すでに学生時代には多くの賞を受賞していた彼女は、家族の反対を押し切って美術の道に進みました。日本画の技術を学びながらも、紙だけでなく木材や布といった異素材を組み合わせ、既成の表現を超えた独自のスタイルを探求していきます。当初はフランス移住を考えていたものの、アメリカ人画家ジョージア・オキーフとの書簡のやりとりをきっかけに1957年、ニューヨークを目指して渡米することになります。
シアトルに到着後、草間はアート・スチューデンツ・リーグで学びつつニューヨークに移住し、まもなく前衛芸術の最前線で存在感を放ち始めます。彼女のスタジオはアンディ・ウォーホルの「ファクトリー」にほど近く、当時のアート界を代表するクレス・オルデンバーグの制作拠点とも隣接していました。草間の繰り返しの構成や布を使ったオブジェ表現は、ウォーホルの壁紙シリーズやオルデンバーグのソフト・スカルプチャーといった手法に影響を与えたとされ、そのアイデアの革新性が静かに波及していった様子が伺えます。
しかし、その影響力とは裏腹に、草間の作品や発想が他のアーティストに無断で「借用」されていたことは見逃せません。アジア出身の女性アーティストという立場で、当時のニューヨークの芸術界において継続的な注目を得ることは困難を極めました。1973年には手術のために日本へ一時帰国し、そのまま日本に留まることを選びます。1977年からは自らの意思で東京の精神科病院に入院し、現在もその施設を創作の拠点としながら作品を生み出し続けています。幻想と現実、社会と個を見つめる視線は、今なお鋭さを失っていません。
草間の創作の中核を成すのは、日々の制作における無意識的で瞑想的なプロセスです。「水玉」「網」「花」といったモチーフは、その精神世界の記号であり、特に初期の「無限の網」は、スタジオの壁から衣服、家具、街で拾い集めたオブジェにまで浸食するように広がっていきます。やがてそれは、布の突起で包み込んだ「集積」シリーズへと展開し、視覚的反復によって世界そのものを包摂しようとする、没入型の表現へと昇華されていきました。
「集積」シリーズに代表される草間の手法は、後のフェミニズム的彫刻にも通じる先鋭性を持ち合わせており、エヴァ・ヘスらの作品にも影響を与えたとされます。1960年代後半には、家父長制や資本主義、そしてベトナム戦争といった社会的緊張を背景に、草間のパフォーマンスやハプニングは政治的意味合いを強めていきました。帰国後の彼女は、日本社会の保守性に直面しつつも、「無限」や「自己消滅」といった哲学的な思考へと表現を収束させ、新たな内面性を模索するようになります。
草間が初めて個展を開いたのは1952年。以降、国内外でコンスタントに活動を展開し、1966年にはヴェネツィア・ビエンナーレに非公式ながら出展。1993年には日本代表として正式に招待され、世界的な芸術舞台においてその表現力が認められることになります。形式に捉われない自由な発想と、見る者の感情に触れる直接的な訴求力は、彼女の作品が時代と国境を越えて共鳴する要因の一つといえるでしょう。
その後も彼女の作品は、ニューヨーク近代美術館、東京都現代美術館、ポンピドゥー・センター、テート・モダン、グロピウス・バウ、M+、ビクトリア国立美術館など、世界中の名だたる美術館で次々に紹介されてきました。そして2017年には、東京に草間彌生美術館が誕生。ここでは彼女の世界観を軸にした企画展示が定期的に開催され、観る者にとって作品との対話をより深める場として愛されています。深く鋭い感性を持つアートファンにとって、訪れるたびに新たな発見がある場所です。
今回の「INFINITY」展では、会期中を通して会場スタッフが来場者をサポートしており、さらに毎月第1金曜日と土曜日にはグループツアーも開催されています。事前予約不要のこのツアーは、作品理解をより深めたい人々にとって、知識と感性をつなぐ貴重な体験となるでしょう。草間彌生というアーティストの思考を、空間ごと感じ取る機会として、感受性豊かな来館者に強くおすすめしたいコンテンツです。
開催日:
2025年 8月1日(金)、8月2日(土)
9月5日(金)、9月6日(土)
10月3日(金)、10月4日(土)
11月1日(土)、11月7日(金)
12月5日(金)、12月6日(土)
2026年 1月2日(金)、1月3日(土)
*都合により日時が変更となる場合は、公式サイトにてお知らせいたします。
開催時間:
各回15:00~、所要時間約15分
エスパス ルイ·ヴィトン大阪
〒542-0085 大阪市中央区心斎橋筋2-8-16
ルイ·ヴィトン メゾン 大阪御堂筋 5F
お問合せ先:
T 0120 00 1854
contact_jp@louisvuitton.com
開館時間:12:00-20:00
休館日はルイ·ヴィトン メゾン 大阪御堂筋に準じます。
入場無料
会場内の混雑防止のため、入場をお待ちいただく場合がございます。
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